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5、変遷

5、変遷

発声障害にはいくつかの種類があり、それぞれ明確な診断基準がある。
特に『けいれん性発声障害』に関しては、現在では、神経疾患、局所性のジストニアととらえ、心理的な要因とは無関係であることや音声訓練での治療は極めて困難であることなどが、専門医の間での共通認識である。
医学的な定義は専門家に任せるとして、私は、自身の発症からその症状の変遷、その時々で起こった環境の変化などを振り返ってみたい。

発症と思われる時期は、1993年頃だ。
この20年あまりの間に、症状には大きく分けて三つの変遷があった。
初期(1993年から1995年頃)は、わずかな嗄声、語尾が割れる、喉に一枚膜が張り付いたような違和感だ。
嗄声という言葉は、症状がひどくなってから知った言葉で、当時は、捨て息(声に変換されずに漏れる息)が多くなり、気持ち良く響かないという感覚だった。
気になる時もあれば、まったく何も気にならない時もあった。

2年ほどかけて2段階目の症状に移行。
激しい変化の時期。1996年頃から2000年頃。

詰まる、締まるという変化が現れ、脱落する音が気になることも出てきた。
わずかな音の高低でも苦しい音になったり、話しているとどんどん締まって息苦しさを感じたり、喉を開こうとするとそれ以上の力で閉まろうとする異常な力を感じて、常に緊張感があった。
また、うまく息が吐けていない感覚があった。
普通、声は呼気で出ているのに、喉で息が滞留しているような、むしろ吸気で発声しようとしているような妙な感覚もあった。

この頃、裏声から地声に変えた発声を試していたので、それが原因かもしれないと考え裏声に戻してみたりしたが、元々の自分の普通の状態というのがわからなくなり、戻る場所さえなくなったと感じた。
どんな音程で話していたのか、どんなタイミングで呼吸をしていたのかさえわからずパニックになることもあった。

『大な振え』と『小さな振え』と、私が勝手に名づけた現象がある。
たとえば、『あー』という長音を出そうとすると、いきなり断続的なブツ切れの音になる。
長音でなくても、会話やナレーションの言葉の連なりの中でも同じようなことが起きた。
ブレーキとアクセルを一緒に踏んでいるように、ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!っという、まるで声帯の開け閉めの動きがわかるような断続的な音になる。
これが『大な振え』と呼んだ現象だが、『けいれん性発声障害』で、よく言われる『詰まる』という表現は、私の感じ方で説明するとこうなる。

この現象を経験してから、小刻みな『小さな振え』が出るようになった。
瞬時に息が吸えない、喉で息が滞留して吐けないので押し出すようにして音を出す、吸気で発声しようとしている感覚…などが伴う。
呼気も吸気も通常の3分の1ぐらいしか動かず、声に変換できるのもわずかな量で小刻みに震える。
余談だが、この『小さな振え』現象を私は『ちりめん状態』とも呼んだ。
シュワシュワっと内側に縮んだままで外に伸びていけない感じ。

後に分析するに、『大な振え』を押さえ込むために、呼気も吸気も無意識で制限した結果、『小さな振え』になったのではないかと思った。
実際、『小さな振え』の時は、吐く息のみならず吸う息も、一気に吸えずに小刻みになった。

ともかく、さまざまな症状に悩まされいろいろな治療法を試みた時期。
何事もなかったように、突然いい状態が巡ってくることも度々あった。

この時期に関しては、症状が加速し変化の多い時期という括りで2段階目としたが、私の感覚では、さらに二つに分けることができる。

前期は、心理的なこととは関係なしに、症状がランダムにやって来た時期。
後期は、実際の失敗や失敗しないまでも何とか乗り切った時の不安感が引き金となり、自分が何者かに乗っ取られたように悪い状態に引きずりこまれるパターンが頻発した時期。
もしくは、前期の症状を何とか阻止しようとする心理的な要素が、ますます複雑な症状を作っていった時期。
例えば、『大な振え』は前期の特徴で、『小さな振え』は後期の特徴だ。

前期と後期は交錯しながら訪れ、やがて気づくと、声を出すことに関して、仕事やプライベートに関わらず、不安と隣り合わせの時間が多くなっていった。

3段階目。落ち着いた状態。2000年以降現在まで。
激しい締まり感や詰まり感はほとんどなくなるが、時々不意に出てくる。
症状としては、『小さな振え』や微細なブレ、呼気と吸気の乱れだ。

動揺せずに通り過ごせる時もあれば、真っ逆さまにその状態目指して崩れる時もある。
怖いと感じるのは、一気に崩れていくときの感覚だ。
過去の同じような時の記憶と共に、『やっぱり、何も変わっていない、まただ…』とネガティブな感情が一気に押し寄せる。

しかし、2段階目のように、ずっと乗っ取られっぱなしではなく、数分、長くても数十分で抜け出すことができる。

この段階にきて、症状を引き起こすバックグラウンドが、初期の頃とまったく変化していると感じた。
初期から2段階目前半までは、一般的な『けいれん性発声障害』に似た状態。
それ以降は、表に出ている症状としては『けいれん性発声障害』に似ているが、引き金は、完全に過去に感じた不安感や体験、記憶が関係している。

また、3段階目では音声訓練が特に有効だったと感じた。
というより、2段階目までは、出来ない自分、不自由な自分の声を目の当たりにすることが怖くて、受けることができなかったというのがホントのところかもしれない。
3段階目に入って、乗っ取られっぱなしではないということが分かって、初めて安心して受ける気持ちになったというのが、私の場合の真実かも知れない。

初期から3段階目まで、おおよその変化を振り返ったが、このおおよその年表に、音声表現者として特筆すべきことと環境の変化、試みた治療内容などを重ね合わせてみたい。







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