この記事のみを表示する55、2年ぶりの患者さん

55、2年ぶりの患者さん

以前通ってくださっていた患者さんが、2年ぶりに受診してくれた。
このブログの一話目で書かせていただいた患者さんだ。

簡単に経緯を説明すると、けいれん性発声障害の患者さんで喉頭2型の手術を2回受けている。
徐々にまた詰まりが出始めて、一度鍼灸治療と手技療法を受けてみてはどうでしょうという担当ボイストレーナーの紹介で来院。
話を聞いて身体をチェックすると、ケガの後遺症とみられるところがあちこちに点在していて、
特に首周り、肩甲骨の内縁、肩上…。さらにその時は、右大腿骨の手術から数ヶ月たっていてボルトが入っていた。
故障箇所が多かったり、日常的に痛みを抱えていることが、さらに発声に対してもストレスとなり負のループを形成していくことを理解していただき、
全身治療をメインに、音声訓練は一割程度で続けた。

圧痛点が少なくなり、微妙な筋力低下もなくなることを指標に、鍼灸と手技療法で治療。
特に、脳脊髄液の還流に働きかける頭蓋仙骨療法は、神経系を健やかに保つという解剖・生理学的な観点から、神経系の疾患の患者さんには欠かせないと思っているが、
私自身が体験して一番いい治療法だと感じているので、取り入れることにした。

2ヶ月間で11回目の治療で、今までにない嗄声になったが、詰まり、息苦しさがまったくなくなり楽な発声に。
その後一ヶ月ぐらいの間に徐々に嗄声がなくなり、ほとんどストレスのない通常の会話ができるようになった。
ここ2年は、実際に診ていなかったが、メールなどで、時々声を出しづらいと感じることはあるものの、安定して出せていると聞いていた。

『首が硬いんですよ』が第一声。
今回2年ぶりにお会いした患者さんは、通っていらした当時より数段お元気そうに見受けられた。
声はハスキーながら普通に聞き取れ違和感はなく、詰まりもほぼ感じられない。(すごく厳しく聞くと、たまに、あ、今そうだったかな?という程度)
鉄道関係のお仕事で、駅のアナウンス業務などもあるが、以前は一番つらかった仕事が今は問題なくできているそう。
聞いた感じでは普通でも、声を発しているご本人が、水面下でコントロールして相当辛いということもあるので、そういう感じはどうか聞いてみると、
時々出しづらいと感じることはあるけれども、辛い感じはないと。

ただ、いつも風邪をひいているようなかすれ声が気になるということ。
また、首、肩、喉頭周りが硬く凝り感があり、近くの接骨院でその部分をほぐしてもらうと声は出しやすくなるそう。
声は出しやすくなっても、多分力が入っているんだろうなと、ご自分で分析され、
それでも、ほとんど声のことを忘れている時が多くなり、手術を受けてよかったとおっしゃる。


私のチェックでは、右肩甲骨の内縁にかなりの圧痛、以前骨折した左上腕骨の外側上際と内側にも飛あがるほどの圧痛、首は圧痛点はないが凝り感あり。
右大腿骨のボルトはとれて、不自由なくランニングが楽しめるようになったが、左ふくらはぎに日常的に張りを感じるという訴えがあり、
左膝窩部に触れてみると圧痛があり、仙腸関節も左側に鋭い圧痛がある。

甲状軟骨の動きは以前に比べて柔らかく、舌骨との間は以前より開いている気もする。
長音は途切れ途切れ、裏声から地声の連続も辛そう。音声チェックより話すときの方が、よほど物理的ストレスが少ないと感じた。

治療は、筋力バランスをチェックし圧痛のひどいところに置鍼した後、頭蓋仙骨療法をした。
凝りを外力で解そうとするより、その患者さんの体内リズムにチューニングして動きをつけた方が、最小の刺激で深部の凝りを解放できる。
また仙骨、下肢の問題は、頭部や首から、硬膜を通して派生することも多い。
日常的に首に緊張感があれば、その可能性は高いので、頭蓋仙骨療法は、全身のバランスを整える有効な治療法だと思う。

治療法の効く効かないは人による。
何を持って治ったとするかも人それぞれだ。
その点、私は厳しい。普段は全く気にならないが、なにかの折に一瞬詰まったり震えたりすると、あぁまただと思う。
声の仕事の時になると違和感や小さなつまりは増すし、発作が出るかもしれないという不安感が存在すること自体、
未だこの病に縛られている証拠だと思う。
でも、確かに変わってきた軌跡は存在するので、その変化を大切にしたいと思う。
そして前にも書いたが、健常な人が体験できない世界を体験できているのだと思うことにしている。

厳しい評価と多少の自虐と、あとは人はトータルで存在しているわけだからいいんじゃない?
この気持ちは、治療に関してもそうだ。
発声障害の原因や治療法のピンポイントは専門家にお任せして、脳の働きの解明も薬の開発も外科的手術も、どんどん進化していってほしい。
私は、とにかく少しでも楽になったと感じてもらえることがあれば取り組んでいきたい。
痛いところや辛いところがあればそれを取り除き、音声訓練で心折れた時はリラックスしてもらい、
トータルで身体がいい方向に向かい、声も出しやすくなれば、それでいいと思う。