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43、上咽頭の感覚

前回の終りで触れた『軟口蓋の使い方や副鼻腔炎、上咽頭炎』の関連性について思うところを書いてみたい。
軟口蓋は、口の中の上顎を喉に向けてなぞっていくと、硬い骨が途切れた柔らかいところで口蓋垂(のどちんこ)の手前部分だ。
ここは、食物を飲み込む時に、食塊が鼻に入り込まないように閉じる場所で、発声発音の時も、音の特徴に応じて閉じたり、開けたりして、鼻に抜ける音と抜けない音をつくり分けている。
開けて鼻に抜ける音は、鼻濁音の『が行』や『な行』、『ま行』、『にゃ、にゅ、にょ』『みゃ、みゅ、みょ』などの音だが、風邪で鼻が詰まった時にはこれら音が発音しにくくなる。
近年の若い人は、鼻濁音ができない人が多くなったといわれ、そのことが日本語の乱れの代名詞のように言われているが、実は、反対に適宜閉じることができず常に微妙に空きっぱなしの発音の人も多く見受けられる。全体的に鼻に抜ける音で発音が構成されていて、『開鼻声(かいびせい)』という。
鼻にかかった甘ったるい声ぐらいの印象ならまだいいが、明瞭な音が的確に作れないとなると問題で、私の力不足のせいか、開鼻声の矯正の方が鼻濁音より数倍困難に感じる。

喉頭周りや甲状腺の手術の後、一時的に飲み込みがしずらくなるなど、原因となることがある程度想定される患者さんはいらっしゃるが、必要な時はちゃんと閉じているのに、音を作るときに閉じられない方が多くいる。
その証拠に、うがいをすることやコップに水を入れてストローでブクブク泡立たせるなどのことは普通にできる。なのに、発音となると軟口蓋が閉じられないのだ。

このことが発声発音にどう影響するかというと、軟口蓋が閉じないと大きな声が出せない。特に『ハッ!!』など、声門下圧を高めて発声する音などは、顕著だ。
大声でなくても、会話の中で軟口蓋が閉じないと、その代償として喉を詰めて音を作ろうとする。
無意識のうちにこの使い方が蓄積すると、はやり喉に負担がかかるのではないだろうか。

また、自分も含め発声障害の患者さんには、副鼻腔炎や慢性的な上咽頭炎の方が多いのではとある時期から気がついた。
受診したことはなく、そう診断されてはいない患者さんでも、よく話を聞くと、後鼻漏(鼻水やねばねばした痰が喉の方へ落ちてくること)があったり、ちょっとしたことで喉と鼻の間に頻繁に痛みが出たり、その付近がいつも赤く、慢性的な炎症を起こしいるのではという患者さんが多く見受けられる。
ちょうど軟口蓋を含む部分で、声の響きや構音にも関ってくるところだ。
本来健やかでいるべきところがそうでない時、通常の響きや音を再現するために身体はどうするだろうか?
周りの連携する器官が調整して新たな方法を探し、上手くいけば代償のルートができるだろうし、負担がかかれば調子を崩すことにつながるのではないだろうか。
事実、鼻の不快感は声を出しにくくする。

私は、ずっと上咽頭の不快感に悩まされていて、ある時いつも赤い口蓋垂まわりを見ながら、あ、そういえば、声の違和感を感じる直前に起こった変化は、この真っ赤な喉と上咽頭の痛みだったと思い出した。
その後の記憶をたどると、度々痛みがぶり返し後鼻漏が出ていた。
耳鼻咽喉科に行くと、副鼻腔炎だといわれ抗生物質を処方された。
友人の紹介で受診したそのクリニックは、同じような症状の多くの同業者の友人(声の関係の仕事の方)が受診していて、多くの友人が副鼻腔炎だといわれ抗生物質を処方されていた記憶がある。

その頃は、声やのどに違和感を持った初めのころで、いつもの響きがない、喉に一枚幕が張ったカンジでクリアな音が出なくてじれったかった。
今振り返ると、上咽頭の不快感も発声に影響を与えていたのではないかと想像する。
その後は、声が出しにくいということと上咽頭の状態が関連性があるという発想はなかったので、別々にケアしてきたが、ここ数年でいろんな患者さんを診るにつけ、あ、私もそうだったと思い出した。

その後のことに少し触れると、上咽頭の痛み、不快感は、特に桜のシーズンに集中し、その時期には必ずクリニックに通うことになった。レントゲンで副鼻腔炎はないと言われてからも痛みや後鼻漏はなくならず、年によっては数か月抗生物質を飲んだり、アレルギーの薬を処方されたり(検査でも高レベルではないがアレルギー反応が出た)した。
ある年から、あまりによくならないので、抗生物質を長期間飲むよりはと、漢方の専門医と相談し、漢方薬を飲むことにした。
そうこうしているうちに、やはり同じような症状で悩んでいる患者さんから、『Bスポット療法』という治療法のことをきいて受けてみた。
塩化亜鉛を薄めた溶液を上咽頭の炎症部分に塗布する治療法で、50年も前に流行った治療法で、今取り入れているドクターはごくわずかだという。
ものすごく痛くて、受ける時は、エイッ!と覚悟が必要だったが、私の場合はよく効いた。
ひどい時は何をしても痛みが取れず、数か月不快な時を過ごしたこともあったが、この治療を受けると痛みはすぐにひいたし、上咽頭の痰も張りつかずに落ちてきて、不快感に悩まされる期間は格段に少なくなった。
二か所のクリニックでこの治療法を体験し、ドクターの話を総合すると、塩化亜鉛は特に殺菌作用があるわけではないが、粘膜を引き締め、強くする効果があるのではということだった。
私の場合は、もう副鼻腔炎はないが、上咽頭の、痛いと感じたり、粘膜が傷つきやすく痰が張りつきやすい部分があって、そこの浸出液に菌やウィルスがつくのではないかということだった。
直接、菌やウィルスを叩くことよりも、塩化亜鉛を塗布し粘膜を強くすることによって、菌やウィルスを排除していたのだ。

話が長くなってしまったが、上咽頭の不快感と発声障害の関係については、この療法を受けたのが割と最近で、すでにひどい発声障害からは解放されてからなので、断言はできないが、不快感がなくなって響きが戻ると、声を出す時のストレスが軽減されるというのは確かにある。
だからと言って、即、上咽頭の不快感から発声障害に結びつくという考えは安易すぎるが、これからも注視していきたい。
関連するような体験をお持ちの方は、是非教えてほしい。

患者さんによっていろんなケースがあるので、あれもこれもと関連性を疑って神経質になるのもストレスだが、代替医療、特に悪いものを直接叩くのではなく、本来あるべき姿に戻して治癒力を回復させるという治療法は、上手くいく時は、関連した問題が芋づる式に解決する。
発声障害と前後して、ずっと気になっていたけれどとりあえずと棚上げにしてきたことがあったら、一度見直してみてはどうだろうか。
関係があるようであればめっけもの。直接関係なかったとしても、何か気になっていたことが改善されれば、生活の質もグッと上がる。

次回は、もう少し筋肉や筋膜のつながりという観点から治療法を説明してみたい。