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16、クラニオのリズム

発声障害の状況に関しては、大きな変化はなかった。
前に記したように、何事もなかったかのようにいい状態が訪れることもあれば、何かに乗っ取られたように悪い状態が出てくることもあった。
ある程度辛い体験を経験したあたりから、もうこれ以上起伏のある変化はないんじゃないかという希望的観測のもとに推移を見守っていたが、ぼんやり薄く症状が出ている時間は多くなったように感じていた。

その状態とどう向き合うか。
特効薬のようなものがあって治りさえすれば、そのうち症状も辛い体験の記憶も薄れていくのだろうが、症状はあれどどこも悪いところは見当たらないというのだから始末に悪い。
治療法を模索する一方で、この状態とどう向き合うかが、この時期の課題であったと振り返る。
初めてのクラニオのセッションで感じた『自分の内側から答えを受け取って、自分で治る』
深いところから湧き起ってきたその思いが、一番正しいような気がした。

核心に触れる出来事は、まもなくやってきた。
医学的知識も手技療法の経験もない私だったが、クラニオの衝撃が忘れられず、無謀にもトレーニングコースを受けることにした。

少し詳しいクラニオの説明になるが、一般的なクラニオのセッションは、受け手は、マッサージテーブルの上に仰向けになり、プラクティショナー(施療者)は、受け手の、頭蓋骨、仙骨、足の踵に順番に触れて、リズムを捉えていく。
心拍や呼吸とも違うし、心拍や呼吸に影響されない、その人独自の潮の満ち引きのようなリズムだ。
クラニオにもいくつかの傾向があり、最近ではエネルギーワーク的要素のクラニオもあり、骨の動きにはあまりこだわらないものもあると聞くが、当時は、まずこの微細な動きを捉えることが、最初だった。

そっと触れて待つ。
さまざまなざわめきが交錯する中で、やがて小さなリズムが、暗闇の中で自ら光を発するかのように、浮かび上がってくるさまは感動的だ。
だが、はじめはなかなかそうはいかない。
とにかくわからない。
ましてや全くの初心者である私には、そのハードルは高すぎた。

二人組になって、まずリズムを体験することから始まった。
仰向けの受け手の喉頭骨の下にそっと手を差し入れ、骨の動きを感じてみる。
うまく捉えられれば、後頭骨がわずかに上方向と下方向に交互に動くリズムが感じられるはずだ。
もしくは、手のひらの中で、横へ広がると縦に伸びるというリズムだ。
しかし、私の手は何も捉えられない。
周りでは、わかった!おぉーすごい! などと感動の声が上がっている。
半ば諦めかけて、受け手に回ってみることにした。
受ける方なら得意だ。
クラニオは大好きだし、他にも数ヶ月でかなりのワークを体験していて、密かに自分を脱力の女王と呼んでいた。

相方が、私の喉頭骨の下に手を差し入れ、静かに待ち始めた。
私は、その手に頭をあずけ、自分を支える力を一段階づつ緩めていった。
しばらくして、私は、自分の顔面に内側から突き上げてくるようなかすかな圧を感じた。
その圧は、ほどなくするスーッと退いていく。
そしてまた訪れる。
特に大きな圧を感じる場所を探してみる。
目の当たり、もう少し下の方…喉だ…
その部分に意識を集中してみる。
場所を特定されて、その圧はさらに姿をはっきり現しはじめた。
まるで見つけ出してくれたことを喜んでいるかのように。

場所は、喉だ。
グーっと上の方へ圧がかかって顔の方までパンパンになった感じと、
スーッと退いて顔から喉までほっそりした感じが、交互に押し寄せてくる。
この圧がかかった時の詰まった感覚は、なにか身におぼえのある感覚だ。
そうだ!これは喉仏が上下している感覚だ。
喉仏は、声帯を容れている骨(甲状軟骨)だ。
この骨が、クラニオのリズムを刻んでいる?
一般的には、喉頭骨や仙骨、腸骨、足などがリズムを拾いやすく、そこがクラニオの入口になる。
しかし私の場合、甲状軟骨だった。
発声障害に苦しむ私がこれをみつけたのは、偶然だろうか?
しかも、初めて遭遇したリズムで。
何か私にとって大切なことが起こっている気がした。

その前にこの甲状軟骨が上下しているリズムがクラニオのリズムかどうか、確かめる必要がある。
息を止めてみた。心拍のリズムと比べてみた。
いずれの場合も、甲状軟骨が上下するリズムは、独立独歩で凛と自らを主張していた。

ようこそ。やっと気がついたね。
そう言われた気持ちだった。

私の驚きと感動をよそに、そのリズムは淡々と刻まれ、そして、私の発声障害のからくりを説明しはじめた。