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10、認知されない苦しみ

明らかな違和感があり、思った通りの声が出せなくて仕事にも支障が出ている。しかし異常はみあたらないという。

後に治療する側になり、多くのけいれん性発声障害の患者さんの話を聴くことになるのだが、病歴の長い方は、けいれん性発声障害という病がまだわからなかった頃が一番辛かったと語る。
中には、長期間に渡り別の病の薬を処方されていた患者さんもいた。
閉塞的な気持ちのままもがき続ける。
何が起こっているんだろう?どこに向かっているんだろう?
説明してもわかってもらえない。
確かに違和感はあるのだけれども、何も悪いところはない、わからないと言われ続け、おかしいと感じる自分の感覚自体がおかしいのか、気にしすぎる自分のメンタルの問題なのかと自分を責める。

私が話を聴いた多くのけいれん性発声障害の患者さんは、最近は、いろいろなメディアなので病のことを知り、自分もそうではないかと専門医を訪ねているケースが多いと感じる。
病の多くは、医者に指摘されて気づくが、けいれん性発声障害に関しては、患者自らが、これに違いないと、自分で確信して専門医を訪ねることが多いような印象を受ける。
それだけ患者は自分の状態をよく把握しているということで、つまりは悩んできたということを物語っていると思う。
これに近い経験をした私は、けいれん性発声障害の患者さんを前にすると、何よりもまず、何が起こっているのかわからず、もがき苦しんできたことに対して、ホントに大変でしたよねと、同志のような気持ちを抱かずにはいられない。

今では、ジストニアという神経系の病であるということがわかっている。
一度に多くの患者さんを救える薬物療法などはまだ確立されていないが、何由来の病かという背景がわかり、病名の認知度も上がり、専門医も存在するようになった。
同じように苦しんでいた人がたくさんいた。
どんな病かがわかって一緒に戦う人達がいる。
それだけで、どれほど閉塞的な状態から抜け出すことができることか。

認知されない苦しみは、患者自身が一番よく知っている。
私自身も、ここ数年、けいれん性発声障害の患者さんの会などの活動や、患者さん自身の訴えを目の当たりにして、勇気を出して手を挙げた患者の一人だ。