FC2ブログ

この記事のみを表示する7、アナウンサー時代の刷り込み

7、アナウンサー時代の刷り込み

『安い、早い、そこそこ上手い』
それは、新人が世に出る時には必要なことだと思った。
ギャラが安い。現場でNGが少なく収録が早く進む。そしてとりあえず基本ができていてそれらしくまとめる力がある。
しかし、いつまでもそこで満足していてはいけない。
そこから一歩抜ける段階に進まないと進歩はないと思った。

無難にこなせると重宝される一方で、没個性の原因の一つは声だ。
私は、例えばハスキーであるとかキャラクターっぽい声であるとか、そういう特徴的なものは何一つない。
比較的つるんとしたまぁ聴きやすい声で、そこそこ明るくそこそこ落ち着いている。
現代のアナウンサーは、個性というか個々の特徴の声そのままに表現することが当たり前だが、その頃の女子アナウンサーの声、声の出し方には、ある程度決まった雛形があったような気がする。地方局になればなるほど、その傾向が強いような気がした。
裏声の高いトーン、作り声だ。

その時点から15年以上も前のことになるが、局アナになったばかりの頃の忘れられないエピソードがある。
ラジオの深夜放送が花ざかりで、当時はパーソナリティーと呼ばれる人気DJがたくさんいた。
どんなアナウンサーになりたいかと聞かれて、同期の一人がパーソナリティーと答えた。
すると、上司は、カッと目を見開き、
『男子アナはパーソナリティになりうるが、女子アナはパーソナリティーにはなれない。女子アナはアシスタントだ』と言い放った。
気まずい雰囲気が広がった。
それは違うんじゃないかと心の中で反論したが、ここでは要求されることに応えていかなければならないんだなと思った。

上司の価値観に敢然と異を唱える勇気も、自分なりの表現でそれを証明していく感性もセンスも、私は持ち合わせていなかった。
忙しさに紛れ、画一的な声と表現の中にどっぶり浸かっていた私は、それが当たり前でそれ以外の発想がなかった。
フリーになって感じた限界は、そこに起因している。

この部分から変えていこうと思った。
私自身のホントの声で表現する。
それが、この混沌としたレースから抜け出す鍵になる。
没個性の象徴である裏声を封印することに決めた。